私が雑誌社を辞めてフリーライターになったばかりのころは、どんな仕事でも二つ返事で引き受けていた。「スケジュールはきついけど、いい仕事をしたら、原稿料も高くなるかもしれない。次の仕事にもつながるかもしれない」と思いながら、必死に書き上げ、推敲を重ね、締め切りも必ず守った。「こんなに使えるライターは、ほかにはいないだろう」という自負もあった。「安い原稿料でも、しっかりした原稿を書いてくれるライターさん」と誉められる(?)ようになり、仕事も切れ目なく、来るようになった。
ところが、仕事の本数が増えても、生活はちっとも楽にならない。なぜなら、原稿料が安いのである。困ったことに、家賃や公共料金が月末に支払えない。どんどん取材を入れるものだから、原稿を書く時間もない。24時間体制で仕事をし、疲れたら仮眠をとった。眠るのではなく、気を失う状態だった。なのに、生計が成り立たないのである。これには本当に困った。
知人から、「有限会社にしたら、仕事が広がる」というアドバイスを受け、お金を工面して法人化した。しかし、名刺の肩書きが変わっただけで、クライアントは同じだから、収入は増えない。苦悩する私にスタッフの佐藤が言った。「安い原稿料の仕事を続けても、将来につながらないんじゃないでしょうか」。声をかけてくれるクライアントの仕事を断るのは、勇気がいることだった。仕事の依頼が途絶えることも予想されたからだ。「干される」という状態だ。
しかし、このままでは何も変わらない。安い仕事を断ることで得られた時間を使って、原稿料の高い仕事を探そうということになったが、当てがあったわけではない。
ところが、作業に追われる毎日の流れから外れることで、時間的・精神的余裕が生まれた。自分の置かれている立場も客観的に見ることができるようになった。すると、仕事の流れが大きく変わり、新規クライアントや新規事業へとつながったのである。
下請けのライターを、「低賃金」という奴隷的報酬で使う編集プロダクションは少なくない。しかし、プロとして自立する以上、それを良しとしてはいけない。私は、仕事を断る勇気を持ったことで、ライターとして、編集者として、本当の「プロ」になれたと思っている。